初歩と制作上のポイント(ゲート処理)

2009.03.28 | author: | 緋影流プラモデル製作研究所 | 開発計画
ゲート処理のゲートとは、ランナー(パーツが収まっている枠組み)とパーツを結ぶ極わずかな部分です。ランナーをよーく見てみると、枠組みは丸い形状なのに対し、ランナーとパーツを結ぶ部分は四角い形状をしているので分かると思います。その四角い部分がゲートです。
このゲートは、パーツを金型で成型するのになくてはならないもの(加熱され液化したプラスチックが入る入り口)ですが、本来のパーツ形状には必要ない部分です。プラモデルを作る上で、基本的にランナーに収まったパーツを切り出して組み立てていくわけですから、もっとも基本的な技法となります。このゲート部分をいきなり根元からバチンときってしまい、切り口にゲートが少し残ったり、逆にパーツ側がえぐれてしまったり、白くなったりした覚えありませんか? これを綺麗に仕上げてあげるだけでも、出来栄えは随分と変わってきます。また最近のプラモデルは非常に精度が高いので、パーツの合いがギリギリだったりする所もあります。そこへゲート跡が残ってるパーツを無理に差し込めば、最悪パーツの破損にもつながります。
なので、外から見える部分と、パーツの合いがキツイ所だけでも処理してやることで、随分と変わってきますよ。

ゲート処理

実際のゲート処理の前に、”プラスチックの白化現象 ”について説明したいと思います。パーツを切り出したりしてて、切り取った部分が白くなってしまった経験ありませんか? これは、プラスチックに圧力がかかった場合に発生する現象です。白い成型色であれば見た目わかりませんが、濃い成型色となると格段に目立ってしまいます。これを極力発生させないためには、先ず白化のメカニズムから理解すると、自ずと解決方法が見えてきますよ。
実験台として、ランナーの一部を用意しました。これを白化させてみたいと思います。

ゲート処理

「てりゃぁあああっ!!」 と折り曲げてやると、見事に白くなってしまってますね。これが”白化 ”です。ただ、注意してよく見てみてください。白くなっているのは、折り曲げた外側だけですよね? そう、白化とは、”プラスチックに圧力がかかり、密度が薄くなって起こる現象 ”です。つまり、プラスチックに引っ張られる力が加わると、ある程度(樹脂の種類により粘度が違うので差異があります)伸びようとするわけです。その限界を超えれば折れ(千切れ)ますし、限界内であれば繋がってはいるものの写真のように白くなってしまいます。これを”完全に避ける方法は現状ない ”のですが、”極力抑える方法 ”はあります。そして、”白化してしまってもそれを目立たなくしてしまう ”ことも出来ます。

ゲート処理

先ずは、目立たなくしてしまう方法からご説明します。白化とは、プラスチックの密度が薄くなって起こる現象だと説明しましたよね。なので、その密度をまた濃くしてやればよいのです。その最も簡単な方法として、”ツメ等でグリグリ擦る ”こと。
実際にやってみましょう。何故爪がいいかというと、プラスチックを傷つけることなく擦ることが出来るからです。なので、硬く、先が丸まっているものであれば、同様の効果が得られますよ。そうこう話してる間もぐーりぐーり擦ります。すると…

ゲート処理

擦った部分が、元の成型色に近くなっていますよね。これは、密度が薄くなり白化してしまった部分に、再び圧力をかけ密度を元に近い状態まで高めた為戻ったわけです。
ただ、一つだけ注意点を。この白化現象は、なにもゲート処理だけでおこるものではありません。関節部などでパーツの合いをきつくしすぎた場合なども、受け側を広げようとする圧力がかかって白化することがあります。そういう場合は、白化しているのは表面だけじゃなく見えない内部も白化、つまり密度が薄くなっています。こうなると密度が薄くなるということは脆くなってるということでもあり、パーツが破損する一歩手前なので、諦めてその部位のパーツを交換することをオススメします。

ゲート処理

続いて、もう一つの方法を。爪や、擦るものが届く場所であればぐりぐり擦ってやればよいのですが、届かない部分にはどうしたらいいでしょう? 奥まってる所、その部分だけくぼんでる所など、擦りにくい部分の場合は、”成型色に近い塗料を白化した部分にちょんちょんと塗ってやります ”。極々限定的な部分塗装とも言える方法で、成型色に近い塗料を塗ってやれば当然…

ゲート処理

ご覧の通り白化を塗料でごまかすことが出来ました。ただし、この方法の難点は、なかなか成型色とぴったり合う塗料があるとはかぎりません。若干濃かったり薄かったり、白くなってしまってる状態よりはマシですけど、どうしても目立ってしまうことがあります。そういうときは濃い場合に限りますが、塗ったときに乾く前にさっとふき取ってみてください。そうすると周囲に塗料が伸びて、成型色と塗料の中間色を生み出し目立たなくなることもありますよ。

ゲート処理

さて、白化のメカニズムと対処方法が分かった所で、実際のゲート処理をしてみたいと思います。ゲート処理には、途中までの行程は同じでも、最後に行なう処理の仕方が二通りあります。
ですが、取り敢えずはパーツを切り出さないと話にならないので、切り出し方から解説していきますよ。まず、写真の”12 ”のパーツを切り出したいと思います。このパーツは、計3箇所のゲートがありますので、それを全て切り落とすわけですが、”ゲートにはパーツの形状により、太いゲート、細いゲートがあります ”。なので、”切り落とす時は細いゲートから ”切り落としていきましょう。何故かというと、細いものは当然脆いので、後回しにすると細い部分がポキっと根元から折れてしまう場合があるからです。

ゲート処理

切り落とす時の注意点がもう一つ。”極力ゲートを多めに残して切り落とす ”こと。ニッパーの切れ味などにもよりますが、あまりパーツよりの部分で切り落とすと、切り落とした際の圧力でゲートの中を痛め、それがパーツ側にまで及ぶことがあるからです。そうなると、その後のゲート処理が面倒になったりしますので、極力多めにゲートを残してパーツを切り出します。
また、ニッパーが入りにくい場所などは、一旦周辺のゲートごと切ったり、ニッパーの刃の向きを変えたりしてみるとよいですよ。

ゲート処理

さぁ、パーツが切り出せました。赤○で括られたくらいのゲートを残してやれば、もしゲート内部を痛めたとしてもパーツ側まで及ぶことは少ないと思います。ただし、極端に太いゲートの場合はその分切る時に痛めやすいので、もう少し余分にゲートを残してもよいですよ。
このあとは二通りの処理方法に分かれるのですが、ここまではどちらを選択しても共通の作業となります。

ゲート処理

では、二通りある方法の内の一つ、ニッパーでのゲート処理について。このとき用意するニッパーは、”極力切れ味の鋭いもの ”を使います。出来れば、道具編で紹介したような”薄刃ニッパー ”等がよいですね。何故かといえば、ニッパーで直接パーツとゲートのつなぎ目部分を切断してしまうので、ニッパーの切れ味が悪いと、切断面が潰れてしまうからです。
やり方は簡単。ニッパーの刃側をゲートが飛び出している部分にピタっと密着させて、パチンと切るだけです。

ゲート処理

そうすれば、ニッパーがちゃんと切れるものなら、写真のように白化することなく綺麗に切り落とせていますよね。この仕上がりが綺麗にいくかどうかは、しつこいようですが”ニッパーの切れ味一つで変わります ”よ。
このゲート処理は、2通りある内簡単な方です。ただし、あまりにもゲート口が太いものや、曲面(刃が平面なので)には不向きだったりします。 加えてこれら以外にも、得意なゲート、苦手なゲートがありますので、そちらも紹介しておきましょう。

ゲート処理

先ずは、得意なゲートを。ゲートは基本的に”□ ”です。このどれかの面が、写真のようにパーツの端に面してるものに対しては、非常に強いです。切り口も綺麗で、ゲートを残すことなく1発で綺麗に切り取れます。平面で太すぎないなら、積極的にニッパーを使って処理時間を短縮しましょう。


ゲート処理

逆に、ゲートのどの面もパーツの端に面していないものに対しては、そのまま切り落とそうとしても、ゲートがほんの僅かだけ残りやすいです。残ってしまった場合は、↓で紹介するカッターによる処理方法を使って綺麗に仕上げるとよいですよ。
あと、実はこれ以外にも苦手とするものがあります。それはクリアパーツです。クリアパーツは、ほんの僅かな白化も見逃してくれません。クリアは、特にゲート後が目立ちやすいパーツなので、ニッパーでの処理ではなくカッターでの処理をするようにした方がいいですね。

ゲート処理

さて、続いてはもう一つの処理方法、カッターによるゲート処理です。カッターも極力切れ味の鋭いものを利用します。個人的には”デザインナイフ(アートナイフ)”をオススメします。ペンタイプなので、細かい部分の作業にも力を入れやすく切れ味も非常に鋭いので、ゲート処理にはうってつけです。
今回はいきなり実践ではなく、その前にカッターを使った処理を絵で簡単に解説していきます。ニッパーの時とは違い、カッターでゲートを切り落とす時は、1方向から刃が進入していきます。そして、ゲートとパーツをいきなりつけ根から切り落とそうとすると、どうなるでしょうか?

ゲート処理

刃がパーツとゲートとの間に進入していくと、パーツとゲートがまだ繋がってる部分には、赤矢印のような力がかかります。カッターの刃は、薄いといってもゲートの大きさにとっては非常に分厚い代物です。そんなものがパーツとの接合面に入っていくわけですから、”まだ切り落とせていないパーツとゲートとの間にカッターの厚みの分引き裂かれる力が働きます…そう白化する条件が整ってしまう ”わけです。これは、刃が進入していくほど、残された部分に強い圧力が加わります。なので、切り落とした後の最後まで残った部分近辺が白化したり、えぐれやすいわけです。

ゲート処理

これを防ぐ為にはどうしたらいいでしょうか。↑の画像で、一つだけ紹介していない曲がった矢印(力)がありますよね。これは切り離されていくゲートが刃の厚みに負けて折れ曲がろうとする力です。ゲートがしっかり残ってる状態で根元から切ろうとした場合(↑)、折れ曲がろうとする力よりゲートが形状を維持しようとする力が遥かに勝っているので、刃の厚みの分の引き裂こうとする力が、全てまだ繋がっているパーツとゲートとの間に集中してしまいます。
ならば、”一度に切り落とすゲートを極端に薄くしてやれば、切り離されたゲート部分は折れ曲がっていくので、刃の厚みを受け入れやすくなり、白化しにくくなる ”わけです。

ゲート処理

では、実践してみましょう。先ずパーツを痛めない為にゲートを多めに残しているので、これを全て薄く切り取る必要ないですから、ある程度を残してとりあえずゲートを切り落とします。右写真を見ていただければ、どれくらいゲートをパーツ側に残しているかがわかるかと思います。

ゲート処理

あとは、残ったゲートを”サラミを薄くスライスするように ”切り落としていきます。どちらの写真でも、パーツから完全に切り落とされていない状態で、既に切断された側のゲートが”くるっ ”と反り返っているのが分かりますよね。あとは、これを繰り返していき、ゲートを完全に切り落としてやります。

ゲート処理

そうすれば、非常に綺麗な仕上がりとなります。ただし、”残り僅かのゲートを切り落とすときは、パーツの方までえぐってしまわないように注意する ”こと。ここまでせっかく綺麗に処理してきたのに、最後でえぐってしまっては元も子もありません。最後まで油断しないで、焦らず丁寧に作業することが大事です。
とまぁ、以上二通りのゲート処理を紹介してきたわけですが、どちらも一長一短です。前者となるニッパーでのゲート処理は、簡単でスピーディですが条件が限定されてしまう。後者のカッターによる処理は、どんな条件でも有効だが手間がかかる。なので上手く使い分けていきましょう。ただし、ニッパーでは処理しきれないケースがある以上、”基本となるのは後者 ”ですよ。ゲート跡は目立つ部分ですし、しっかりと押さえておきましょうね。

ゲート処理

最後に、”爪で擦って本当になんとかなっちゃうの? ”という疑問をまだお持ちの方もいると思うので、おさらいです。実際に、敢えて白化するようにパーツを切り出してみました。ちょっとピンボケしちゃってますけど、切断面が白くなってしまってるのが分かると思います。

ゲート処理

これをグリグリグリグリ…と擦り続けると……右写真のように綺麗にしあがります。ただ、これには”樹脂の種類により直りやすいもの、直りにくいものがあります ”。粘りのあるABS樹脂等は、爪で擦ることで直りやすいです。逆に一般的なポリスチレン樹脂は、硬度がやや高く粘度が低いので爪が入らない細かい傷や、ちょっとでもえぐれていたりすると直りにくいこともあります。なので、擦っても直らない部分に関しては、塗料でリタッチしてあげましょう。

ゲート処理

ここからは追記分です。ゲート処理をするに当たって「デザインナイフが上手く使えない」というご質問を何件か寄せられましたので、説明していきたいと思います。
先ずは、使ってる道具のことを知りましょう。刃先をよーく見てみてください。断面が二等辺三角形状態になってないでしょうか? これがデザインナイフを使う上で重要なポイントとなります。写真だと分りにくいので、↓で絵を交えて紹介していきます。

ゲート処理

一般的なデザインナイフの刃先は、左側の”両刃 ”のものになります。極稀に、右側のような”片刃 ”もあります。お使いの刃が”両刃 ”であるなら、ちょっとしたコツと慣れが必要になります。
何故上手くゲート処理が出来ないかというと、刃の形が二等辺三角形のようになっているので、ゲート部の最後の仕上げ時に、刃を入れるほど上下方向に無理な力が掛かることになるからです。平らに仕上げようとするほどに顕著となります。
そして、刃を水平方向に移動させようと無理に力を入れると、切り口が波打ったり、最悪えぐりやすくなります。

ゲート処理

実際に試しながら説明していきましょう。写真は、ゲート部を残り僅かまで落とし、最後の仕上げに入るところです。
とりあえず避けたい状態は、”えぐってしまうこと ”ですので、最後の仕上げであっても無理に一度に平らにしようとせずに、真直ぐ横へ切り進むことだけに注意してゲートを落としてみてください。

ゲート処理

分りやすくするために、写真ではちょっと極端に最後の部分を残しました。ナイフがゲートに入り込むほど上下方向に力がかかるので、切り終わるあたりのゲートを引きちぎるような形になってしまうこともあるからです。
そうさせないために、切り終わるあたりは、敢えて写真のようにゲート口を少し残してやります。

ゲート処理

そして、今度は最初とは逆側から刃を入れてやります。逆側にはゲートがまだあるので刃も入れやすいですし、残ったゲートも極わずかなので刃を入れても上下方向にかかる負荷が少なくてすみます。
ただし、刃の入れる方向を変えつつゲート処理をしていくと、ゲート跡が山なりのような状態になることがあります。それを修正する際は、非常になだらかな山になっている分ナイフの刃が入りにくい(山の稜線に沿って刃が滑ってしまう)のでえぐってしまわないように注意しながら、少しずつ平らにすることが大切ですよ。

ゲート処理

最後に爪でちょっと擦ってやることで、白化した部分も綺麗に仕上げることが出来ました。慣れてくれば、1方向のみからナイフをゲートに入れていくやり方でも十分綺麗に仕上げられますが、もし「上手くいかないな〜」と思ったら、反対側からも刃を入れてゲート処理をしてみてください。
初めてゲート処理をしようとするとえぐってしまったりして、ゲート跡が平らになりにくいものです。陥りやすい罠は、無理に力を入れてしまうことです。デザインナイフは非常に切れ味が鋭いので、その切れ味を十分に活かしてゲート処理をすることが大事です。

ゲート処理

では、無理に力を入れずに刃の切れ味を活かすにはどうしたらよいでしょうか? 答えは、刃を真横に運ぶではなく、手前に引くか、奥にずらしながら切ることです。刃物は、前後に動かしながら切った方が、余計な力を使わずに切ることが出来ます。
写真を比べてもらえば分ると思いますが、刃全体を使うようにして少しずつゲートを落としてやりましょう。こうすれば、変な力を入れてえぐってしまうようなことは少なくなります。
せっかくの鋭い切れ味を持つナイフを使うのですから、それを最大限活かしてやることが大切です。もちろん、刃先の切れ味が命ですから、少しでも切れ味が落ちたかな?と思ったら、”勿体無い ”と思わずに替刃に交換してやりましょう。
    

            

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