初歩と制作上のポイント(シール貼り(水転写デカール))

2009.XX.XX | author: | 緋影流プラモデル製作研究所 | 開発計画
水転写デカール(別名スライドデカール)は、通常のシールとは異なり水に浸し水分をシールに浸透させることで貼ることが可能になる特殊なシールです。シールは非常に薄く、複雑な形状、曲面に対しても軟化剤を使用することでピッタリと密着させることが出来るため、仕上がりも大変綺麗です。
しかし、シール自体の強度がとても弱く、シール1つを貼るのに要する時間もテトロンとは比較にならなないほどかかります。また、貼る際に多くの注意点があり、失敗した場合の貼り直しが困難な為に敷居が高いと感じる方も多くいると思います。
ですが、慣れればテトロンでは不向きな所にも綺麗に貼れますし、シールの強度についてもトップコートをしっかり目に吹くことである程度カバー出来ます。ガンプラなどでも、MGや1/100用に別途オリジナルスライドデカールを販売していますので、習得しておいて損はないスキルと言えます。
※ この内容は、過去に「1/72 RVF-25メサイア ルカ機」の作成レポートで紹介したものを、加筆修正して公開しています。

シール貼り(水転写デカール)

先ず、水転写デカール貼りになくてはならないピンセットについてです。一口にピンセットといってもいろんな形状があり、タイプによってはデカール貼りには不向きなものもあります。
というわけで、愛用のピンセットを例に、どんなタイプがデカール貼りに適しているかのポイントを紹介していきます。ただし、人により使い勝手や好みは違うと思いますので、紹介しているものが万人に合うことはないと思います。ですから、ポイントさえ抑えておけば、どんな形状であってもその人の手に馴染むものが一番ですよ。
ちなみに、今現在愛用しているのはピン先がくの字に折れ曲がっており、摘みやすい構造となっています。

シール貼り(水転写デカール)

そしてピン先の拡大。滑り止めの溝が入っていますが、ほんとの先っちょには溝がないですよね。ここ重要です。もし、ピン先まで溝が入っていると、デカールをこの溝に引っ掛けて破きやすい(過去にレイズナーのコックピットのデカールを貼る際、溝に引っ掛けて破きかけたことがあります;)です。お持ちのピンセットが溝入りタイプであるなら、ピン先を一度確認してみてください。

シール貼り(水転写デカール)

続いてもピン先なのですが、今度は挟む面ではなく上ないし下から見た拡大です。ピン先が丸まってますよね。ここも大事です。まぁ鋭利に尖ってるものはそうそうない(刺しちゃいますから)とは思いますが、ここがあまりにも尖っていると、同様に破きやすいので気をつけましょう。
ピンセットの種類は、ほんとにたくさんあります。いろいろ試してみて、使いやすく、摘む対象を極力痛めないものを選ぶとよいと思いますよ。

シール貼り(水転写デカール)

では、実際に貼ってみましょう。写真のキットは、「1/72 RVF-25 メサイア ルカ機 with ゴースト」のゴーストになります。このキットは、本体のRVF-25にはテトロンとスライドの両方が付属していますが、ゴーストには水転写しか付属していません。なのでこれを作る際には、水転写デカール貼りは避けては通れない道となります。
水転写デカールを貼るには、使いたい部分をカッターや鋏で切り出し水に数秒浸した後引き上げ、さらに20秒前後放置すれば台紙からデカールをスライドさせられます。そうしたら、スライドさせつつ台紙からシールを剥がし(こうすることで水糊をデカール裏面により貼付させられる)貼りたい場所に置き、空気と水分をそっと抜いて密着させます。ですが、近くに書かれてる番号も一緒に水に浸してしまうと…

シール貼り(水転写デカール)

ご覧の通り、番号も剥がれてしまいます。これだと肝心のデカールにその剥がれた番号が張り付いたりしますので、番号も切り落としてから水に浸しましょう。
写真では番号が剥がれるのを見せる為に浸からせてますが、本来は↑で説明した通り数秒浸したあと後、水から引き上げて少し放置すれば、デカールを台紙からずらせます。
尚、テトロンやドライデカールのときと同様に、予め貼る面の油分を中性洗剤で落とすことを忘れずに。

シール貼り(水転写デカール)

スライドデカールを貼る時は、貼る場所に写真のマークセッターを付属のハケで塗ってやり、その上にデカールを貼るとより定着します。尚、塗るという言い方をしましたが、基本的にプラスチックの上なので、はじかれて水玉になります。その状態で結構ですので、塗る部分に水玉がいくつか出来ようにしておきます。
作業的に僅かな時間で済みますので、デカールを水に浸し水分を浸透させてる間に塗ってやるとよいと思います。あと、糊の成分が沈殿しやすいので、使用する前には必ずよく振ることを忘れずに。

シール貼り(水転写デカール)

マークセッターを貼付したら、その上にデカールをのせます。小さいものであれば、台紙からスライドさせてピンセットで摘みあげ、そのまま貼りたい場所にのせればOKです。このとき多少の位置ズレは気にしなくても大丈夫。プラスチックとデカールの間に水分とマークセッターがあるため、デカールの端をちょいちょいと押してやれば簡単に位置調整出来ます。
ただし、これはデカールが小さいから簡単に出来ますが、極端に大きいデカールの場合は”慣れ ”が必要です。その場合は、下地に水分やセッターを多めに添付しておく等、ずらし易い環境を作ることも大事となります。

シール貼り(水転写デカール)

位置が決まったら、綿棒がかすかにデカールに触れるくらいの位置で、デカールの中央から外側に向かって”コロコロコロ ”と転がすようにしてデカールとプラとの間にある水分と空気を押し出してやります。これをすることでデカールが密着するわけですが、このとき綿棒を押し付けながらやってしまうと、デカールが動いてしまう原因になります。また、一度水分を抜いてしまうと、その後のデカールの移動はし難いですし、無理に移動させようとするとデカールを切ってしまったり、グシャっと丸まってしまうので要注意です。
綿棒を動かすイメージは、動きに合わせて綿棒が回転するのではなく、回転することで綿棒が動いていく感じです。くれぐれも綿棒を押し付けないようにしましょうね。

シール貼り(水転写デカール)

ちょっと前後しますが、スライドデカールの位置調整の詳細を。自分は、爪楊枝だったり綿棒だったりその時々で状況に合わせて使い分けますが、綿棒の場合は繊維を巻き込みやすいので、爪楊枝の方がやりやすいかもしれません。
というわけで爪楊枝を使ってスライドデカールを動かしたい時は、”デカールの端 ”を爪楊枝の先でちょいと押すようにします。小さいものであれば、これで全体がぐぐっと動いてくれます。間違ってもプリント面に先っちょを当てて動かそうとしないように。また、セッターにも若干ですが軟化させる成分が含まれているので、貼付した状態であまりノンビリしていると移動させようとしたときに破れることがあります。焦らず、手早く、丁寧に作業しましょう。

シール貼り(水転写デカール)

写真のような浅く小さなモールドであれば、セッターだけでも十分密着してくれます。しかし、深めのモールドがあるときは、↓で紹介するマークソフターを使用するようにしましょう。
デカールと貼る面との間の水分と空気を押し出したら、その後は乾燥するまでは触れないようにします。水分や軟化剤がデカールに完全に浸透してる状態が、最も脆い時です。ここで触れてしまうと、せっかくの苦労が水の泡となってしまいますので、慣れないうちは一つ貼ったら乾くまで別のパーツに貼ったり、違う作業をすると良いかもしれません。

シール貼り(水転写デカール)

基本を紹介したところで、ここからは形状が特殊なものや、曲面への貼り方を紹介していきます。
先ずは、形状がちょっと特殊なものを。写真のデカールは、細めのラインである上に中抜き部分も含まれています。これを、小さいデカールと同様にピンセットで摘みあげて貼ろうとすると、クルクルっと丸まってしまいます。デカールは、たとえ切れても落ち着いて貼ればなんとか補正が効きますが、丸まってしまうとどうにもならなくなります。
なので、こういった細長いタイプや、大きいデカールは、台紙から摘み上げてしまうのではなく、貼りたい場所の真上に台紙ごとデカールを置き、一端をピンセットで抑えて台紙を引き抜く作業が必要となります。

シール貼り(水転写デカール)

では、実際にやってみます。とりあえず、水に数秒浸してから引き上げて放置する所までは同じ作業です。

シール貼り(水転写デカール)

水分がデカールに浸透するまでの間に、貼り付ける部分にマークセッターを塗っていくのも同じですね。前にも言ったとおり基本的にはじかれます。なので、ちょん、ちょん、ちょんと写真のような水玉状に貼付します。一応水玉状になってるのを確認してもらう為に、角度が若干違う写真も用意しておきました。
マークセッターは、当然のことながら貼る位置に貼付することになるので、事前にどのあたりにシールを貼るかというのを、取説できちんと確認しておきましょう。

シール貼り(水転写デカール)

先ほど説明したとおり、写真のようにピンセットで押さえつつ台紙からスライドさせて貼ります。コツは、ピンセットで摘み上げた方を貼る位置から動かさず、そのまま台紙だけをゆっくり引き抜く感じです。
写真では、撮影の関係で貼る位置からかなり離れてしまっていますが、実際に貼る時は可能な限り貼る面に近づけた方が失敗が少ないですよ。

シール貼り(水転写デカール)

このデカールは形状が特殊なだけでなく、複数の面(上面と下面)にまたがるので、一回で綺麗に貼る位置が決まることはまず出来ません。デカールを台紙から抜いたら、手際よく位置の微調整、シワとりをしていきます。
先ほども書いた通り、マークセッターにも若干ですがシールを軟化させる作用があります ので、セッターを使用する以上はノンビリしているとシールが軟化してしまい、破れやすくなるのでサクサクっといくのがポイントです。 爪楊枝、綿棒を使い分けて位置を調整し、水分と空気を抜いていきましょう。

シール貼り(水転写デカール)

ここで、マークソフターを使用します。マークソフターは、デカールを軟化させる作用があり、曲面や凹凸の激しい形状にもピッタリ密着させることが可能です。これだけ聞くと「なんて便利なアイテムだ」と思うかもしれませんが、使用には注意が必要です。
軟化させるということは、言葉を言い換えればデカール自体が非常に破れやすくなるということでもあります。塗った状態でうっかり爪楊枝の先でデカールをつついたりするとアウトですし、塗りすぎた場合は何もしなくてもデカールが過度に軟化してシワシワになってしまいます。また、どれくらいの貼付が適度なのかは、ソフターの浸透によるラグがあるので加減が難しく、経験が必要となります。出来ることなら、いきなり本番ではなく事前に癖を掴む練習をすることオススメします。

シール貼り(水転写デカール)

マークソフターは、セッターと同様にキャップに付いている付属のハケで塗ればよいのですが、そのままだとハケにソフターが含まれ過ぎています。一度に塗りすぎない為にも、ハケに付いたソフターを十分によく落としてから使用するとよいですよ。

シール貼り(水転写デカール)

今回使用するのは、上面と下面にまたがってる部分(角度がちょっと鋭角なので)です。その近辺を軟化剤で柔らかくしておくことで、デカールの力で浮いてきてしまうのを防ぎます。
マークソフターについては、人それぞれの使い方があるようです。よく耳にするのは、デカールに直接塗るのはアウトという意見ですが…自分は直接デカールに塗る派だったりします。実際、ソフターに慣れてからは、直接塗ってもこれまで失敗をしたことはないですし、そういう方は恐らく塗ったらそのまま放置されているのではないかと思います。
ということで、ここでの使い方の紹介は、直接塗る方法となりますので、ご了承くださいませ。

シール貼り(水転写デカール)

貼付したら、今回の場合はそこまで軟化させる必要はないので、貼付するのは1回だけにして、3〜5秒くらいおいてから貼付したソフターを綿棒に吸い取らせます。尚、余分なソフターを吸い取るときは、そおっとデカールに触れる感じで作業します。こすり付けたり、強く押し付けてしまうと、柔らかくなったデカールを破いてしまいますよ。
指先がぷるぷるしないよう、深呼吸して落ち着いて作業しましょうね。

シール貼り(水転写デカール)

以上で、無事貼り終えました。デカールが細長く貼る際には注意が必要ですが、落ち着いて、慌てず、手際よくやればきちんと貼ることが出来ると思います。
もし、水転写デカールを扱うのが苦手だったり初めてな人は、こういった部分は後回しにして貼りやすい所から貼っていき、慣れてから難易度が高いところを貼るという手もあります。ですが、水転写デカールは失敗をした時の対処が難しいシールでもあるので、可能であれば事前に練習をすることをオススメします。

シール貼り(水転写デカール)

続いて、曲面への貼り方です。貼る位置は、デカールの真横にあるガンポッドの膨らみ部分です。Rがそこまできついわけではないですが、緩やかな球状になっているので軟化剤がないと貼り難い場所となっています。

シール貼り(水転写デカール)

これまでと同様に、デカールに水分を浸透させる間にマークセッターを貼付させていきます。セッターを貼付することで、既に部分塗装した塗料を溶かしてしまうことはありません。安心して貼付させていきましょう。

シール貼り(水転写デカール)

ここも、デカールの形状がやや大きく長めなので、ピンセットで端をもち、その端を貼る位置の真上で固定して台紙をスッと引き抜いてやります。
慣れればどうってことない作業ですが、最初のうちは大変かもしれません。焦らず、落ち着いて作業しましょう。

シール貼り(水転写デカール)

あとは、爪楊枝、綿棒を駆使して位置を調整しつつ、空気と水分を抜いてやります。ここは平面ではなく曲面なので、多少シワになっても気にせずに(シワになるのが当たり前なので)、位置だけを気をつけて調整していきます。

シール貼り(水転写デカール)

位置調整と粗方の密着作業は終わりましたが…見事にシワシワですね。ここでマークソフターが本領を発揮します。こんなシワシワ状態でも、きちんと処理してやることで綺麗に密着させることが出来ます。

シール貼り(水転写デカール)

シワになってる部分を中心に、上から”ちょんちょん ”という感じで、少しずつソフターを貼付させていきます。

シール貼り(水転写デカール)

今回の場合は完全にシワになっているので、5秒ちょい待ってから綿棒で余分なソフターを吸い上げつつ、軽くシワを押してデカールを曲面に少しずつ馴染ませていきます。
このとき、強く押しすぎてしまうとデカールが綿棒に張り付き”ベリっと剥がれてしまう ”ので、くれぐれも無理に押し付けないように。「ちょん、ちょん、ちょん」って感じで少しず作業していきます。

シール貼り(水転写デカール)

そうすると、ご覧の通り大きなシワが嘘のようにほとんど消えました。しかし、まだ細かなシワが残っていますね。なので、またソフターをシワになってる部分に貼付して・・・を繰り返していきます。この後は、シワも小さくなっているので、貼付する量も抑え、吸い取らせる間隔も先ほどよりはやや短くしていきます。
大事なのは、一度に完全に密着させようとするのではなく、少しずつ馴染ませていくことです。なので回数を分けて、ちょっとずつ、ちょっとずつ面に馴染ませていきます。

シール貼り(水転写デカール)

今回は、この作業を3回ほど繰り返すことで、ご覧の通りシワなく貼ることが出来ました。しかし、写真では分かり難い極々小さなシワがよーーく見るとまだ残っています。けれど、それくらいのシワは、乾燥する過程でデカールに浸透したソフターが曲面に馴染ませてくれます。 ソフターを使用する上でのポイントは、貼付する量、貼付したまま放置しないこと、回数を分けて徐々に馴染ませることです。あとは慣れていくしかないと思います。扱いがやや難しいですが、使いこなせばスライドデカール貼りが格段に楽に、上手くなりますよ。
    

            

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