初歩と制作上のポイント(ヒケ処理)

2009.XX.XX | author: | 緋影流プラモデル製作研究所 | 開発計画
パーツを成型する際は、金型に熱して溶かしたプラスチックを流し込んだ後に冷やして固めるのですが、冷やされるときにプラスチックは収縮(溶けてるときは熱膨張してるため)してしまいます。この収縮率は、プラスチックの厚みがあるほど比例して高くなります。キットのパーツは、当然のことながら厚みが一定であるわけもなく、薄いところ、厚みがあるところと様々です。その厚みがあるところが、冷める際に収縮して本来の形状よりも凹んでしまうのです。これが、俗に”ヒケ ”と呼ばれる状態です。
ひどいヒケでないかぎりは、光の加減や見慣れていないとパっと見分からないことも多いのですけど、サンドペーパーで表面を磨くと一目瞭然となります。なぜなら、本来の形状よりも凹んでいるので、そこだけペーパーがけがされずに成型状態のツヤを保っているからです。素組みや部分塗装、つや消し処理で済ませると目立たないものも多いですが、全塗装、特に光沢仕上げとなると確実に目立ってしまいます。パーツ表面に意図しない凹みがあるため、どんなに塗装を綺麗に仕上げたとしても台無しになってしまいます。
そこで、事前にこのヒケを削り取ったり、埋めたりすることを”ヒケ処理 ”と呼びます。下処理の工程としては、地味で一番時間と手間がかかる工程ですが、丁寧にこなすことで完成度が確実に増しますので、「将来的には全塗装を目指したい」という場合は習得しておきたい技術と言えるでしょう。
尚、ペーパーがけをすると粉末状のプラスチックが飛散しやすいです。マスクを着用して作業をすることをお勧めします。また、ここで使用するラッカーパテは、使用、乾燥工程でシンナー臭がします。換気、火の元には十分注意して作業を進めてください。
※ この内容は、「IMS 1/100 the BANG」の作成レポートで紹介したものを、加筆修正して公開しています。

ヒケ処理

先ずは、ヒケがどういう箇所に発生しているかを実際に確認してみましょう。今回のモデルは「IMS 1/100 the BANG」です。スナップフィットモデルではないので、そこまで多くはないですが、それでもヒケはあちこちにあります。
写真の赤○でくくった箇所をよく見てみてください。600番で軽くペーパーがけをしたところですが、縦にうっすらと線が浮かんでいるのが見えるでしょうか? ここが、凹んでペーパーがけがされていない箇所になります。

ヒケ処理

パーツを裏返すと、ヒケていた箇所に合わせて他の箇所よりもプラの厚みがある部分(梁)がありますよね。冒頭にも申し上げたとおり、ヒケは周囲よりプラの厚みがある所に発生しますので、まさに言葉のとおりの状態になっているわけです。
逆に言えば、ペーパーがけをしなくてもパーツ裏側を見ることで、大体どこがヒケているかというのが分かるわけです。

ヒケ処理

今回のような極々浅く小さいヒケであれば、軽くペーパーがけを行うだけで簡単に消えてしまいます。
写真は、ヒケ消しのペーパーがけをしたあとですが…先ほどの縦の線が消えていますよね。サンドペーパーをかけるときは、400〜600番で最初にざっとかけて、仕上げに800〜1000番を使用して表面を均します。丁寧にヒケを処理する場合には、ペーパーがけの後にサーフェイサーを吹きさらにペーパーがけを繰り返したり、目的の仕上がりに合わせて、水研ぎ(耐水ペーパー1000〜1500番を水につけて磨き上げること)をしたりといろいろあるのですが、ここでは初歩的な処置法のみ掲載いたします。

ヒケ処理

では、実際にペーパーがけを詳しく紹介します。サンドペーパー(紙やすり)でパーツ全体を擦る以上、文字通り主役はサンドペーパーとなります。使用するのは、400〜800番が主体です。番手の数字が小さいほど目が粗く、逆に数字が大きいほど目が細かいものになります。
注意点としては、最初に目の洗い(番手の小さい)サンドペーパーで擦るときに、本来は削ってはいけない箇所(エッジや突起部分)を削らないようにすること。本来は角ばった形状のところを、エッジを削ってしまうと丸みを帯びてしまいます。こうなると、度合いによってはパテで盛って成型し直したりする必要も出てきてしまいますから、注意しながらヤスリがけしていきましょう。

ヒケ処理

曲面等を除いて平らな面をペーパーがけする際は、平らな台にサンドペーパーを当ててペーパーがけをすると良いです。こうすることで、きちっと平らに削りだすことが可能となります。使用するものは、シャーペンの替芯のケース等、小さいものが使いやすいでしょう。
写真は、電撃ホビー5月号についていたパーツセパレーターを使用しています。

ヒケ処理

実際にペーパーがけをするときは、余計な力は入れずにパーツの面とヤスリの面を平行に当てて軽く擦ってやるだけで十分です。力を入れすぎるとパーツの面とヤスリの面が平行にならなかったり、余計な箇所まで削ってしまうこともあります。細かいパーツ等の場合には、破損にも繋がります。
加えてヤスリの目は、削るほどプラスチックの粉が入り込んで削れなくなります。ある程度はティッシュ等に軽くこすり付ければ取れますが、やがては使えなくなります。削れなければ意味はないので、ヤスリ目にも気を使いながらペーパーがけをしましょう。

ヒケ処理

ペーパーがけをすると、写真のようなヒケを随所で見つけることとなると思います。その場合は、ヒケの度合い(深さ、大きさ)に合わせて対処方法を選択します。写真程度のヒケであれば、そのままペーパーがけを続けてヒケを消すことが可能です。
尚、冒頭でも書いたとおり、ペーパーがけをすると粉末状になったプラスチックが飛散してしまいます。吸い込むと健康にもよくありませんので、マスクを着用して作業を進めましょう。

ヒケ処理

ペーパーがけをそのまましていくと、ご覧のとおりヒケは綺麗になくなりました。ヒケが消えたあとは、800番以上でペーパーがけをして、粗くなった面を均すのを忘れずに。
もしも、塗装をしないという場合は800番→1000番と順にペーパーをかけて均し、さらに1000〜1200番で水研ぎをしてやると大体元の半光沢な仕上がりに戻ります。

ヒケ処理

ヤスリがけをしているので、当然粉末状の細かい削りカスが発生します。これらは、モールドやパーツの隙間にも入り込んでしまいます。このままだと、塗装をする場合はもちろん、無塗装で墨入れをするって際にも問題になります。
ダスターやブロアーで吹き飛ばすこともできますが……周りに粉末化したプラスチックが飛び散りますので、あまりよろしくはないですよね;

ヒケ処理

そこで、筆や歯ブラシ(毛先が細く柔らかめのもの)を使って、溝に入り込んだ粉末を取り払ってやりましょう。一作業ごとに丁寧に掃除をしておくと、余計な場所に飛散しないですし、作業場も綺麗になりますよ。
あと、これらの作業は、PCの近くは避けた方が無難です。粉末化したプラスチックは、目に見えない範囲まで飛散します。PCは、内部で冷却ファンが動いており、基本的に外気を取り入れて冷却するものが一般的(水冷タイプなら大丈夫)です。そうすると、粉末化したプラスチックを吸い込み、故障の原因にもなります(日常化していなければ大丈夫だとは思いますが)ので注意しましょう。

ヒケ処理

モールドに入り込んだ削りカスもなくなり、綺麗になりました。刷毛等で取り除く以外にも、水洗いをするのも一つの手段です。本来は、水洗いした方が余計なプラスチック片を残さず洗い流せるので、可能であれば水洗いした方がいいですね。
水洗いしたあとは、十分に乾燥させるのも忘れずに。

ヒケ処理

最後は、大きいヒケを見つけたときの対処方法を紹介します。写真のように、大きさ、深さともにある程度ある場合は、そのままペーパーがけで消そうとすると、時間がかかる上に削りすぎて本来の形状とは変わってしまいます。

ヒケ処理

こういう場合は、削って凹みをなかったことにするのではなく、埋めてしまえば良いのです。
今回使用するのは、ラッカーパテ(プラパテとも呼ばれます)と呼ばれるもので、ラッカー溶剤を浸透させたパテが中に入っています。このパテの良い点は、ヒケや気泡を埋める程度であれば乾燥時間が比較的短い、ラッカー溶剤で溶くことで濃度を自由に変えられる、乾燥後も硬度が高すぎないので加工が楽等でしょうか。逆に欠点として、ラッカー溶剤を含んでいるので使用中や乾燥中はシンナー臭がする、溶剤が揮発することで硬化するためこのパテ自体もヒケてしまう、乾燥後の硬度がそこまでないので強度が必要な箇所には使えない等です。

ヒケ処理

ただ、ヒケる点に関しては、最初にある程度余分に盛ってやれば良いので、ヒケ穴を埋めたりする分には問題ありません。
盛りつける際は、パテそのままだとかなり粘土が高いので、ヘラ(なければ爪楊枝でも)等でざっと盛りつけてやります。乾燥後もそこまで硬くはなりませんから、簡単に削り取れますよ。
しつこいようですが、使用中、乾燥中は臭いがしますので、換気や火の元には気をつけて作業をしましょう。

ヒケ処理

今回の盛りつけ量であれば、2時間もあればほぼ完全乾燥します。ゆとりを見たとしても3時間待てば十分です。
あとは、これまでと同じように400番→600番→800番と順にペーパーがけをしていけば、写真のように綺麗に穴を埋めることが出来ました。あとは、一つ一つ丁寧にペーパーがけをする根気のいる作業です。ですが、1ランク上の仕上がりを目指したい場合には、大事な工程となります。全塗装をする際には、是非チャレンジしてみてください。
    

            

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